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風が吹けばヤクルトが品切れ?王道青春ラブコメ『好きだった君へのラブレター』感想

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概要

スタッフ・キャスト

監督 スーザン・ジョンソン

脚本 ソフィア・アルバレス

原作 ジェニー・ハン "To All the Boys I've Loved Before"

出演 ラナ・コンドル(ララ・ジーン)

   ノア・センティネオ(ピーター・ケヴィンスキー)

   ジャネル・パリッシュ(マーゴ)

   アナ・キャスカート(キティ)

あらすじ

ララ・ジーンはロマンス小説が好きな高校生。学校での自分は「目立たない」と思っている。好きな人が出来るたびにラブレターを書いてはこっそり保管していたが、そのラブレターが全員に届いてしまうことに。そのなかには初恋の人である姉の元彼も含まれていた。事態を打開するため、自分とは正反対な運動部の同級生と偽の交際契約を結ぶことにするが...

予告編


To All The Boys I've Loved Before | Official Trailer [HD] | Netflix

感想

王道な学園もののラブコメ

いやもうね、私は弱冠24歳なんですけど「学園モノ」とか「ティーンズラブ」みたいなジャンルがだんだんキツくなってくる年頃なわけですよ。このジャンルが悪いというわけではなくて、高校生だったのも8年か9年ぐらい前なので「誰と一緒にランチを食べるか揉める」とか「学校こそが世界のすべてで、狭いコミュニティゆえに交際関係のゴシップは一瞬で広まる」とかそういう「学園もの文法」にいちいち「ターゲット層じゃない感」を感じて集中できないわけですね。こないだも菅田将輝めあてに『溺れるナイフ』見ようとしてリタイアしたし。

そんなわけで、この『好きだった君へのラブレター』もタイトルだけ見ると甘々成分全開な感じです。twitterで話題になっていなかったら観なかったかも。しかし、心配は無用でした。率直だけど思いやりのある物言いと彼氏の陰に頼らずトラブルを解決し、やばそうなフラグはがんがんへし折っていく行動力が素敵。一言で表すなら「守ってあげたい系女子」じゃなくて「自分のケツは自分でピカピカに拭く系女子」。うーんコレコレ!という感じです。そんなしっかり者だけど恋愛とは無縁だった彼女がフェイクとはいえ「恋愛ごっこ」を演じているギャップが面白いのです。

ストーリーは超王道なラブコメです。手紙を送った一人で「付き合ってるフリ」をしてるフットボール部のイケイケ男子はわりと早い段階でララ・ジーンのことが好きになり、初恋の人である姉の元彼にもうっすら心を寄せられている。最初はララ・ジーンとピーター・ケヴィンスキーの両方に「忘れられない人」がいて、気を引くための「二番目」だったんですが、緊張する「初恋のあの人」より「気軽に話ができる親友ポジションの二番目」にいつまにか恋に落ちてしまうのもラブコメあるあるですよね。

キスシーンのビデオが流出してしまい、あらぬ噂を立てられたりプリントアウトした画像をロッカーに貼られるといったトラブルもありますが、「13の理由」の登場人物全員にあたたかい洋服と美味しいご飯を食べさせたようなやさしい世界観なので深刻なイジメに発展するようなこともありません。

「ドリーム彼氏」ことピーター・ケヴィンスキーもララについて「君の方が本音で話が出来るし、オシャレ」と評している。あからさまに元カノサゲをせず、生まれつきの容姿より内面やセンスを褒めるピーター、分かってるな!「元カノは可愛くないし」なんて言われた日にゃあ、反応に困りますからね。ダーク成分はかなり抑えめですが、ほっこりしたい気分のときにおすすめな映画です。

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ララがネットで買ったアーミーブーツを「あの靴、オシャレだったよ」というピーター

 

生意気な妹キティこそMVP

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週末を毎日ひとりで過ごす姉を案じて、姉が書き溜めていた妄想ラブレターを勝手に投函した妹キティ。だいたい妹ポジションだと生意気で遠慮はないけど真髄をついたことをポンポン言う、みたいな役回りが多いと思うんですが、キティも例にもれずこのタイプです。

リアルに妄想ラブレターを投函されたら恥ずかしくて地球の裏側に引っ越したくなるかもしれませんが、ここはラブコメ・ワールドゆえ、問題ありません。小さなトラブルがドタバタと幸せを呼ぶのです。今回はラブレターの宛先のひとりにのちの恋人であるピーターが含まれていたので実質的な恋のキューピッド(たとえが古い)はキティということに。そのほかにも「コリアンヨーグルトスムージー」がどこに売っているのかピーターに教え、9歳なのにパパをチェスで打ち負かし、ララジーンが捨てようとしていたピーターのからのラブレターもすべて別に保管。トンデモナイが、面白いし、よくできた妹である。三姉妹の長女でララジーンの姉もちょろっと登場するものの、スコットランドの大学に進学したのであまり実家に帰省できず、この映画の脚本を成り立たせているのは実質この妹。母を亡くし、だれかと深い関係を築くのを怖がっていた姉に一歩踏み出させたのもこの妹。現実世界の(私の)妹なんかせいぜい勝手に私の洋服を着ていくくらいなのになあ。まあそれが現実ってもんですよね。

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「土曜の夜に妹とドラマの一気観してるの悲しくない?」という台詞を作るNetflix様 余裕のポーズ

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クジャク色の壁が素敵

「コリアンヨーグルトスムージー」ことヤクルト 

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劇中にはララ・ジーンの好物である“韓国製のヨーグルト・スムージー”として登場し、正式名称は紹介されないものの、形状や色などは明らかに「ヤクルト」だと視聴者の間で話題となった。

アジア圏でも広く販売されている同商品は、アメリカ国内のアジア系スーパーなどでも取り扱いがある店舗も。劇中でピーターが試し飲みするシーンなどが話題となり、「飲んでみたい! 」とアジア系スーパーに駆け込む視聴者たちが続出した。ツイッター上では「いつも行くアジア系スーパーに行ったら、ヤクルトが品切れしていた」、「懐かしくなってつい買いだめしてしまった」などの報告コメントが相次いでいるほか、米経済メディア、ブルームバーグまでもがこの現象に着目し、顕著な経済効果として取り上げるまでになっている

「ヤクルト」が海外で人気に!映画『好きだった君へのラブレター』が影響 - フロントロウ

netflixでヤクルトを見かけたり、アメリカでヤクルトが爆売れする日が来るとは。もっとも、ラティーノ・コミュニティの間ではポピュラーな飲み物として認知されていて「いまさら?」と言っている声も。今回のヒットは偶然だったにせよ、ちらっと写り込んだだけでこんなに認知されるなんて、コンテンツマーケティングの可能性って無限大だよねえ。(マーケティングについて何も知らない人の感想)

アンチ・ホワイトウォッシング

原作小説を書いたジェナ・ハンは映画化にあたり「ヒロイン役の俳優はアジア系」という条件を譲らなかったそう。*1

アジア系の表象を見慣れている日本だと「ヒロインがアジア系」というのは特段珍しくもないんですが、北米では原作ではアジア系の設定である役に白人が起用されるホワイトウォッシングがたびたび起こったり、アジア系の俳優は「従順でおとなしい」「空手が得意で特殊能力を持ったファイター」というようなステレオタイプな役柄にしか起用されなかったりという問題があります。

前者だと映画『アロハ』で中国系のルーツを持つ役をエマ・ストーンが演じたり、『ゴースト・イン・ザ・シェル』の草薙素子スカーレット・ヨハンソンが演じたのは記憶に新しいですよね。後者だと『キル・ビル』のGOGO夕張とかかな。

これらの何が問題かというと、アジア系の表象が少なく偏っていることによりアジア系へのステレオタイプを増強すること、それからマイノリティーの子どもが自分と共通点のある・親近感の湧くキャラクターを見つけられずに過ごしてしまうという点です。twitterや口コミサイトのレビューなどでは、映画やコミックで登場するマイノリティグループに属するキャラクターについて「このキャラが○○でなければいけない必然性がストーリーから感じられなかった」という感想を必ず目にします。最近だと『オーシャンズ8』とか(笑)。

しかし、本来は同性愛者でなければ/オール女性キャストでなければ/アジア系でなければ/アフリカ系でなければいけない理由づけなんてないんですよね。そもそも「マイノリティでなければいけない理由」が必要だと観客が思うことこそが非対称性を示していると思います。より実験的なオリジナル作品を公開しているNetflixはまたしてもグッジョブだね。メジャーな映画だと大きなスタジオほど世界規模での興行成績を狙う事情から白人多めになったり、偉いひとがほとんど白人だったりすることから白人系中心の作品になってしまう傾向があります。才能のあるアジア系の人がちゃんと起用されるのを願います。

社会の変革のために映画をみてるわけではないんだけど私はやっぱりバラエティが多い作品の方が楽しいし、「周縁の人々」とされるキャラクターが出てくる物語が好きだからね。